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CACAO特集 VOL.1

2020.12.6

カカオ豆(bean)から板チョコ(bar)までの全工程を一貫して行う「ビーントゥーバー」は、大手メーカーから独立系ファクトリー、ショコラティエが手掛けるだけではなく、異業種からの参入やカカオ生産国からの発信など、さらなる広がりを見せています。
今回は、老舗メゾンから産地発まで、海外の3ブランドをご紹介します。

<ボナ>

世界最古の家族経営のショコラトリーが語る
フランスの伝統的なビーントゥーバー


「そもそも“ショコラティエ”とは、カカオ豆をチョコレートに加工する職人のこと。チョコレートからボンボンショコラを作るのは、コンフィズール(砂糖菓子職人)の仕事です。今ではこの定義も変わりましたが……」
こう語るステファン・ボナ氏にとって、ビーントゥーバーは100年以上前から続くメゾンの歴史そのものに他なりません。父から子へ、伝統の技術とレシピは受け継がれ、創業当時と変わらぬ工程でチョコレートをつくっています。

ボナがカカオ豆からのチョコレートづくりをはじめたのは1884年。コンチングマシンが発明されたことにより、現在のような口どけなめらかなチョコレートが食べられるようになってから数年後のことです。
ボナをはじめ当時のショコラトリーは、複数の産地のカカオをブレンドし、それぞれ独自のチョコレートの味わいを作っていたといいます。とはいえ、チョコレートというものは、あくまでも“おやつ”の域だったとか。

その位置づけが変わったのは1984年。この年、メゾンの100周年を祝って、単一産地・単一農園のカカオ豆だけを使った7種のチョコレートを発表。世界に先駆けて、シングルオリジンという概念を打ち出しました。
「テイスティングや産地について誰も語ることのなかったチョコレートは、そのときからワインのように、ガストロノミーな存在になったんです」

シングルオリジンのチョコレートは、ボナ氏の代で大きく発展し、メキシコやペルー、ブラジルなど中南米をメインに、アフリカ、アジアの産地別に約30種のラインナップ。材料はカカオ豆と砂糖、カカオバターだけ。ビターはレシチンを加えずに製造可能な最大限の含有量ということで、カカオ分75%。ミルクチョコレートも65%とハイカカオなのは、あくまでもカカオが主役で、そのカカオの個性が主張すべきというポリシーから。

年間の1/3は生産地に赴き、カカオの発酵から乾燥に至る工程が最適になされているかをチェックするというボナ氏。現地で行われるこの一連の工程が、カカオのアロマや風味の方向性を決定づける重要なファクターだといいます。
一方、アトリエでカカオからチョコレートに加工する工程で重要なのは、焙煎の加減。
「焙煎もアロマの発展を大きく左右します。産地ごとに温度と時間を調整し、自分の求めているアロマを引き出すんです。その見極めは、匂いを嗅いで確かめるしかありません」

失われたカカオを求め、見果てぬ夢を抱く

ボナ氏は希少な古来種カカオの保存・再生にも精力的に取り組み、現地の農業組合や自治体と協力してプロジェクトを進めています。絶滅したといわれていたカカオを復活させたり、原生林に自生するカカオを体系的に栽培したり。すでに「カカオ・レアル・デル・ソコヌスコ」など、タブレットとして実を結んだものも。
テロワールがカカオの風味に大きく影響するという考えから、こうしたカカオへの取り組みでは、アグロフォレストリー(森をつくる農業)の理念を尊重しています。カカオだけではなく他の作物や樹木を植えることで、農業と森林の保護・再生を両立でき、地域の活性化にもつながるのです。また、生物多様性が生じるので、さまざまな植物の影響を受け、カカオが特有のフレーバーをまとうのだといいます。

「セルヴァ・マヤ」もこうしたプロジェクトの成果のひとつ。このチョコレートに使われるカカオが育つのは、メキシコのジャングル奥地に暮らす、マヤ族の末裔たちの小さなコミュニティー。外界から隔離されたこの地に、古いタイプのカカオが残っていたのです。やさしい風味から強い風味へと、グラデーションのようにフレーバーが広がるこのカカオに魅せられ、ボナ氏はプロジェクトをスタート。必要な道具を提供し、発酵や乾燥の方法を教え、この地にカカオの文化を蘇らせたのです。
ジャングルの密やかなカカオがチョコレートになるという壮大なロマンを、ボナのチョコレートで体験してみませんか?

上から)セルヴァ・マヤ 2,160円 /オランジュ・フィグ 2,160円 / カカオ・レアル・ソコヌスコ 1,944円

<チョコレートライン>

ベルギーの伝統的なショコラの世界の革命児が、
フロンティア精神でカカオ農園を拓く

料理人としてキャリアをスタートするも、ショコラティエとして独立することを選んだドミニク・ペルソーネ氏。1992年にベルギーのブルージュで「チョコレートライン」を立ち上げ、ベーコン×キノワやコーラ、タバコ、ワサビ、ゴマ×山椒など、料理の一皿のように味わいで遊ぶというアプローチのショコラを展開し、センセーションを巻き起こしてきました。顧客にはベルギー王妃やザ・ローリングストーンズも。

ペルソーネ氏がビーントゥーバーに乗り出したのは2007年。初めて訪れたメキシコで、最高クラスのクリオロ種のカカオと出会ったのがきっかけでした。

ところが、ほどなくしてその農園が廃業し、肝心のカカオが入手できないという事態に。
「テキーラをグイっとあおって(笑)、よし、だったら自分で農園をやってしまおうと」
これまた大胆な発想の転換! カカオ豆からのチョコレートづくりというチャレンジは、カカオ栽培から手掛けるという大きなアドベンチャーになったのです。

こうして始まった自社農園プロジェクトは、土地探しからはじまり、カカオ苗の植えつけから収穫ができるようになるまで5年かかったといいます。

農地に選んだユカタン半島は、カリブ海に面し、チチェン・イッツァをはじめマヤ文明の遺跡が多く残るエリア。メキシコにおけるカカオ栽培の70%を占めるタバスコ州のお隣でありながら、乾燥地帯ゆえ歴史的にカカオ栽培は行われていなかった土地です。そのため灌漑設備を導入し、適切な環境を整えるという更なる苦労もあったとか。
とはいえ、この地を選んで正解だったというペルソーネ氏。カカオは非常に交配しやすく、また、疫病にも弱い植物。近隣にカカオ農園はないので、そうした被害を受ける心配がないというわけです。

「カカオの発酵や乾燥に関する知識はゼロからのスタートで、実地で試行錯誤しながら学んでいった感じですね。焙煎の加減も苦労しましたが、カカオの音に耳を澄ますんです。ポップコーンと同じように、カカオが跳ねて教えてくれるんですよ」
収穫を待つ5年の歳月が幸いし、ビーントゥーバーをしっかり理解できたといいます。

単一品種のカカオごとの味わいを守る

現在栽培している品種は、カルメロ、ティト、サムエルというクリオロ系の3品種。
「カルメロは豆が真っ白いのが特徴で、心地よい酸味とフレッシュ感、アプリコットのような風味もあり、複雑な味わいのすばらしい豆で一番のお気に入り。ティトはさらに酸味が強く、モカコーヒーのような風味。サムエルはイチジクやレッドベリーのようなフルーティーさが魅力。いずれもアロマが繊細なので、焙煎をかなり浅くしています」
古いタイプのメキシコ固有種から厳選したというこの3種は、それぞれ単一品種のタブレットとして、今回のサロン・デュ・ショコラにも登場します。
農園は自然保護区内にあるので、無農薬で100%ナチュラルな栽培法を実践。農園の一角にはハーブ園も整備し、また、虐待された猿などの野生動物の保護活動も行っています。
動物、自然、人間の共生――。これこそ、ペルソーネ氏がカカオ農園からのチョコレートづくりを通して描き上げたい未来。

「ビーガンコレクション」は、まさにこのビジョンを体現したコフレです。自社農園のカカオを使ったチョコレートをベースに、チアシードやクコの実といったスーパーフードや、栄養価の高いマンゴーやオートミールを混ぜ込んだ6種のフィンガータイプのチョコレートバー。動物性食品は加えず、砂糖はココナッツシュガーを使い、ミルクチョコレートにはミルクパウダーの代わりにココナッツミルクを使用するなど、健やか&ギルトフリー。
美徳がたくさんつまったカカオという果実を、よりヘルシーに愉しんでみませんか?

ビーガンコレクション 3,888円

<パカリ>

カカオの国でカカオ農家とともに歩む、
「ツリートゥーバー」のオーガニックチョコレート

コートジボワールやガーナをはじめ、多くのカカオ生産国ではカカオは輸出がメインで、成熟したチョコレート文化は根づいていません。かつてのエクアドルも例外ではなく、チョコレートといえば大量生産の甘たるいミルクチョコレートばかり。

そのエクアドルで、「パカリ」を2002年に立ち上げたサンティアゴ・ペラルタ氏。
それから10年後、インターナショナルチョコレートアワードで金賞を受賞したこのブランドは、「カカオの産地エクアドルで、エクアドル人が作るプレミアムなチョコレート」として、チョコレート業界だけではなく、他のカカオ生産国にも大きな影響を与えました。

もともとは弁護士を目指していたペラルタ氏。法律を学ぶなかで、現実と理想のギャップを目の当たりにして失望したといいます。そんな彼の正義感に火をつけ、チョコレートづくりに駆り立てたのは、エクアドルのカカオ農家が置かれていた悲惨な状況でした。
「すばらしいカカオを作っても、不当に搾取されているのを知り、いてもたってもいられなくなって――」

自国のカカオを守るというのも大きな動機のひとつ。エクアドル固有のナショナル(アリバ)種は繊細でフローラルなフレーバーで名高く、1920年代までは世界一の輸出量を誇っていました。けれども、カカオの疫病の蔓延や、アフリカ諸国の安いカカオが台頭したことにより衰退。また、近年では生産性の高い改良種の栽培が増え、ナショナル種が失われる危険にさらされていたといいます。

自然を慈しみ、オーガニックでカカオの未来を拓く

こうした状況を踏まえ、数軒の小規模農家と共同でカカオ栽培をスタート。オーガニック農法を取り入れ、自然と共生するカカオ栽培を通してこそ高品質のカカオが生まれるという信念は、ブランド名にも表れています。パカリとは、先住民族ケチェ族の言葉で「自然」という意味なのです。
オーガニックからさらに1歩進んだバイオダイナミック農法にも取り組み、カカオ農園としては世界で初のバイオダイナミック認証をとるに至りました。これは月の満ち欠けや、天体、植物などのエネルギーの循環を尊重し、自然のリズムに則した農法です。

バイオダイナミックのこの循環の概念こそ、パカリのチョコレートづくりの在り方そのもの。生産者たちもサイクルの大切な要素だからこそ、相場の2倍の金額を支払いフェアな関係を築いています。それは生産者たちのモチベーションと自信につながり、質の高いカカオのサステイナブルな生産という循環を生むのだといいます。今では3,500軒の農家が賛同し、パカリは大きなファミリーを形成しています。
「農家と手を携え、ともに発展してきました。だからパカリは『ツリートゥーバー』というわけです」

エクアドルは太平洋沿岸地域、アンデスの山岳地帯、アマゾン流域を擁し、高温多湿の原生林から火山性土壌の乾燥地帯まで、気候や環境はまったく異なります。そして、ひとくくりにナショナル種といっても実際は60種以上。こうしたカカオの多様性と変化に富んだテロワールが結びつき、シングルオリジンのチョコレートにそれぞれ特徴的な個性を与えているのです。
また、チョコレートを通してエクアドルと周辺諸国の豊かな恵みを伝えるべく、アンデス山脈のレモンバーベナやゴールデンベリー、ブルベリー、バラ、アマゾン流域のパッションフルーツ、ペルーのクスコ近郊で採れる塩などを混ぜ込んだフレーバータブレットにも力を注いでいます。「エクアドルコレクション」は、レモンバーベナ、パッションフルーツ、塩&カカオニブのタブレットがセットに。

「チョコレートとは、私たちの哲学を伝えるための“スイート”な手段」と語るペラルタ氏。
パカリのチョコレートを食べるとき、私たちは自然とつながるのかもしれません。

エクアドルコレクション 5,400円

※画像は商談時のものです、実際の出展とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

※価格は全て税込みです。

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